アコースティック・エミッション(AE)


1.AEとは
 アコースティック・エミッション(Acoustic Emission;AE)は、材料中で発生するミクロな地震ともいうべき現象である。ガラスや陶磁器にヒビが入るときの鋭い音を始めとして、物が壊れるときに生ずる音は日常よく経験するAEの例である。AEは、”固体材料の破壊や変形に伴って、弾性エネルギーが解放され音波(AE波)を生ずる現象”と定義されている。金属、岩石、コンクリート、セラミックス、木材、プラスチックスなど実にさまざまな材料でAEが観測されている。直接耳に聞こえるほど強大なAEはむしろ稀で、AE波のエネルギーは通常きわめて微弱で、その検出には高感度の変換子や増幅器を必要とする。AE波は一定の周波数の連続した音波というよりも、継続時間の短い鋭いパルス状の音波と考えられており、その周波数スペクトルは可聴周波数をはるかに越えた高周波に達する広がりをもっている。そのスペクトルが可聴域(Acoustic)に限定されない点を考慮して、Stress Wave Emissionと呼ばれることもある。

2.AE研究の歴史
 AEの存在は古くから知られていたわけであるが、電気的な計測技術を用いたAEの研究が行なわれるようになったのは主として第二次大戦前後のことである。ドイツのF.Forster、あるいは米国ベル研究所のW.P.Mason、H.J.McSkimin、W.Shockleyのグループ、さらにいわゆるカイザー効果で知られるJ.Kaiser等がその先駆者とされている。1970年頃になると、折からの宇宙・原子力産業からの期待も相まって、AEの工学的な利用価値が注目されるようになった。つまり、ロケットや原子炉圧力容器など高度の安全性が要求される対象物で、万一き裂や部分的な変形が生じた場合、これから発生するAE波をとらえることによって、事故の防止や品質管理に役立てようとするものである。この”AE法”について、近年の産業分野での進展には目を見張るものがある。AE法の対象は電子部品のように小さなものから、大型タンク、橋梁、航空機、石油掘削リグの巨大構造物まで広範に及んでいる。

3.AE法とその特徴

 材料中の割れなどを検出するための評価法として、従来から超音波探傷やX線探傷が実施されているが、AE法はこれらの手法とは本質的に異なった特徴を有している。

 超音波探傷は探触子から音波のビームを放射して、すでに存在するきずからの反射波を検出することによって探知する。これに対しAE法は、音波を放射する代わりに、現在成長しつつあるきずが発するAE波を捕える点に大きな特徴がある。そのためAE法は、被検体を実際の使用状態においたり、圧力容器の耐圧試験のように外力を加えてきずが発生、成長しうる条件の下で実施しなければならない。構造物にある程度の大きさのきずが存在しても、使用中に拡大しない性質のものであれば必ずしも有害とはいえず、むしろ超音波探傷では見落としてしまうような小さなきずでも、それが成長しつつある場合の方が重大であるとの議論も成り立つ。このような見地からすれば、AE法は欠陥の危険度に即した高度の情報を与える、いわば動的な検査法とも言うべきものになる。

 AE法は、AE波検出用の変換子を対象物の表面に固定したままで、AE波の伝搬損失が障害にならない範囲の広い領域をカバーすることができる。超音波探傷では、対象領域の全体にわたってくまなく音波のビームが照射されるように探触子を走査しなければならないのに比べると、検査の省力化と信頼性の向上を図ることが可能になる。さらにAE法では、対象物の何個所かに変換子を配置して、おのおのの変換子へのAE波の到達時間差からAE波の発生源となったきずの位置を決定することができる。この位置の推定、つまり”標定”の技術は、摩擦などによって生ずる音響的雑音と、AEを音源の位置に基づいて判別するためにも有用である。

4.AE法の課題と将来

 AE法は、材料研究や設備診断、製造管理の新しい手段として着実に適用分野を拡大しつつあるが、なおいくつかの課題も残されている。なかでも、現在のAEの計測技術には検討の余地が大きく、その結果AE法の潜在能力を十分に活用しえないでいるともいえよう。AE波の波形や周波数スペクトルの定量的測定法、あるいは強大な環境雑音のなかから微弱なAE波を確実に検出するための技術の開発が期待される。また、現象論に止まらない微視的な発生機構との対応を重視したAE特性の基礎研究や、小形の材料試験片で得られた知見を、音響的な特性と力学的条件がともに異なる実機のAE評価に結びつける方法の検討も、重要な課題である。


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