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 音響工学はオーディオやカラオケに限られる訳ではなく、産業や医療のさまざまな分野で重要な役割を担っています。羽田野研究室では音波・超音波で代表される波動現象を対象にして、その計測制御における情報処理と超高速コンピュータによるシミュレーションの研究に取り組んでいます。いずれのテーマでも、ハード・ソフト両面を見据えた先端的なアプローチを心がけています。研究成果の社会への還元にも注力し、外部の企業・機関からの研究員の受け入れ、あるいは共同研究開発の実績も豊富です。

羽田野 甫 (はたの はじめ)

1946 宮城県仙台市に生まれる
1974 東京大・大学院・博士課程 修了、工学博士
1989 東京理科大・基礎工・電子応用・助教授
1995 同 教授
2013 同 名誉教授、現在に至る

・Chairman of ISO/TC 135 Non-destructive testing (国際標準化機構/第135専門委員会 非破壊試験の議長)
・Full Member of Academia NDT International (国際非破壊試験アカデミー正会員)
・国立研究開発法人 物質・材料研究機構 特別研究員

日本音響学会、日本非破壊検査協会、Acoustical Society of America、Audio Engineering Society、IEEE、ASNT 等の会員
カリフォルニア大学(UCLA)招聘研究員、宇宙開発事業団客員開発部員、超音波分科会主査 等を歴任
専門は 音響工学・超音波工学

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フジテレビ テクノ・マエストロ 出演 「超音波を操る男」
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変わるもの・変わらないもの

羽田野 甫

1. 音響工学と超音波工学

 私たちは様々な「音」に囲まれて暮している。自動車や工場からの騒音、鳥のさえずり、風の音、そして人々の会話。しかし音を 物理現象として捉えたとき、私たちが音として知覚できるのはその一部に過ぎない。

 人の聴覚は普通、数百Hz〜数kHzの周波数範囲の音に最も敏感で、これより周波数が高くなっても低くなっても感度が低下する。 この特性には個人差があり、また同一人でも年齢やその他の条件によって変化するが、概ね15〜20kHzが聴覚の上限の周波数と されている。また20〜10Hzより低い音も存在するが、もはやこれを音として感じることはできない(Hz:ヘルツ、1秒間の振 動数)。一般に人の耳に聞こえないほど高い周波数の音を「超音波(Ultrasound)」と呼び、また可聴域より低い周波数の音を「 超低周波音波(Infrasound)」と呼ぶ。おおざっぱに言って、可聴音を対象とするのが「音響工学」、可聴音以外の音波を対象と するのが「超音波工学」である(図1参照)。

2. 変わるもの

 最近のことであるが、人の耳で音として知覚できないはずの超音波や超低周波音波が、人に影響を与え得ることが知られるように なった。例えば「周波数が20kHzを越える超音波には、人を感動させる効果がある。」といわれる。インドネシア・バリ島の民族 音楽「ガムラン」が人々を熱狂させ陶酔状態にまで至らせるのは、大小様々な青銅製の打楽器が奏でる音色に含まれる、100kHz に及ぶ豊かな超音波成分が寄与しているという。またフランスの航空機製造工場で、多くの従業員が体調の不調を訴えたことがあ ったが、工場の製造装置が発する超低周波音波がその原因とされた。

 可聴音は古くから研究の対象とされ、紀元前のピタゴラスやアリストテレスの時代まで遡ることができる。これに比べると超音波 の研究や応用が行なわれるようになったのはかなり遅く、超音波の発生や検出の手段が得られるようになった1920年頃からの ことである。その後超音波の工学的な応用範囲が拡大し、今や多くの産業分野を支える不可欠な技術になっている。

 超音波の応用分野を大別すると、超音波のもつパワーを直接利用するものと、超音波を情報の担い手として通信・計測や機能部品 に利用するものに分けられる。電気における強電・弱電の分類に相当する。前者の身近な例としては、眼鏡の超音波クリーナや超 音波モータを用いたオートフォーカスカメラがある。後者の例としては、意外に感じられるかも知れないが、最近普及が著しい携 帯電話がある。一個一個の端末には、多数の圧電振動子やフィルタなどの超音波素子が、限られた資源である電波の周波数を効率 よく利用して、膨大な加入者に対応するための重要な機能部品として組み込まれている。この分野ではギガヘルツ(GHz、109Hz) 領域に達する高周波の超音波が利用される。また医療の分野では、超音波を体内に放射し、そのエコーを検出して体の内部の様子 を画像化する超音波診断装置も身近なものになっている。

 超音波の主な特徴をまとめると以下のようになる。

1)波長が短い: 伝般速度が光や電波に比べて桁違いに遅く、同じ周波数では波長が格段に短い。このため、超音波素子の寸法 を著しく小型化し、あるいは超音波の送受波器に鋭い指向性をもたせることが容易である。物体内部の高精度の探査・画像化が可 能である。

2)様々な媒質を伝般する: 超音波は、空気・水・金属など様々な物質を伝般する。電波の伝わらない水中での通信や探査、あ るいは金属内部の割れなどの欠陥を探知する超音波探傷など、広範な応用分野がある。

3)高いパワー密度が得られる: 超音波は波長が短いので集束させ易く、また人の耳に聞こえないこともあり、パワー密度の極 めて高い音場を実現できる。半導体デバイスや精密部品の超音波洗浄を始めとして、プラスティックスや金属の超音波溶接、セラ ミックスの超音波加工など用途は多岐にわたる。

 超音波の応用分野は、産業の変遷と密接な関連をもっている。超音波洗浄を例にとると、当初は精密機械部品が主な対象であった が、その後のエレクトロニクス産業の発展に伴い、現在では半導体プロセスにおける必須の要素技術として、大きなマーケットを 占めるようになった。本学同窓の指田年平氏の創案による超音波モータが登場したのも、最近のことである。今後、思いもかけな いような超音波の応用分野が開ける可能性もある。

3. 変わらないもの

 サイレンやエジソンの蝋管式録音機のように、直接電気の作用を利用しないで音の発生や受波を行う例もあるが、音波を電気信号 として検出し、あるいは電気信号で駆動して音波を発生する手段が登場して始めて、今日の音響工学や超音波工学の進展がもたら されたといえる。マイクロホンやスピーカはその身近な例であるが、これらを総称して「電気音響変換器」と呼ぶ。電気音響変換 器がなければ、今日のラジオ放送も、電話も、音楽プレーヤも存在しえなかった。

 音響工学や超音波工学の応用技術は20世紀に目覚ましい進展を遂げた。一方、その基盤技術ともいうべき電気音響変換器の原理 は20世紀初頭に案出されたものが多く、一世紀近くに渡って不変である。例えば超音波の発生や受波用に、第一次世界大戦に前 後して考案された超音波振動子は、当時の形をほぼ継承したものが現用されている。また、イギリスで数十年前に製品化されたス ピーカが、現在も同じメーカーから市販されており、最先端の振動板材料や磁性体をふんだんに用いた新型の製品に伍して支持を 得ている例もある。

 音楽再生の分野で最近はCDを始めとした種々のディジタル音源が主流になっているが、嘗てのLPレコードのようなアナログ音源の 方が、音楽性に富み好ましいという愛好家が少なくない。このような話になると、技術の進歩とは何かを考え直す必要もありそう である。これから社会に羽ばたこうとしている諸君には、どのような分野であれ、その基盤を永年に渡って支えてきた技術が存在 することにも目を向けてもらえれば幸いである。

(基礎工学部卒業記念アルバムに寄せて)

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